スペルト小麦とエンマー小麦

2014年06月30日

前回の記事:スペルト小麦の栽培記録【冬越え~出穂まで】」にて少しお伝えしましたが、現在、上井堀の畑にて試験栽培中の「スペルト小麦(学名:T.spelta)

しかし実際には同じ古代小麦でも系統(属)の全く違う、二粒小麦といわれる「エンマー小麦(学名:T.dicoccum)」なのではないか?との疑惑が浮上してきました。

長い話にはなりますが、なぜこんな疑惑が起こったかという話の経緯の前に、小麦と呼ばれる植物の分類や進化の歴史の話をほんの少しだけお話しします。

コムギという属 (Triticum )は、生物学的に、1つの穂の稔実粒数、染色体数、ゲノム構成によって、「一粒系」「二粒系」「普通系」の三系統に分類されます。

これを倍数性といって、それはそれは生命の進化の不思議を内包する興味深い性質なのですが、詳しく説明をしだすときりがない話ですので、ここでの説明は割愛します。


倍数性染色体数ゲノム式種類
二倍性2n=2x=14一粒系AA野生ヒトツブコムギ
栽培ヒトツブコムギ
四倍性2n=4x=28二粒系AABB野生フタツブコムギ
栽培フタツブコムギ
マカロニコムギなど
チモフェービ系AAGG野生チモフェービコムギ
栽培チモフェービコムギ
六倍性2n=6x=42普通系AABBDDスペルトコムギ
パンコムギなど
ジュコフスキー系AAGGAAジュコフスキーコムギ

コムギの話より引用:http://www.shigen.nig.ac.jp/wheat/story/
※詳しく知りたい方は、こちらのサイトなどを御覧ください。小麦の話、知れば知るほどほんとうにおもしろいですよ。



今現在、日本で一般的にコムギと呼ばれるモノのほとんどは「パンコムギ(普通系コムギ)」といわれる分類のコムギです。

名前の通り、パンの作成に最も適し、パン以外にも、うどんやラーメンなどのめん類、チャパティー、ケ-キ、クッキー、ビスケット、まんじゅうや煎餅などの菓子、などなど、数えきれないほど幾種類もの食べ物の原料として使われています。

このコムギは世界の人口の約1/2の主食とされ、現在世界のコムギの栽培面積の約9割はパンコムギが占めています。

野生のものはなく、栽培過程で交配と品種改良を繰りされながら、雑種から育成された種です。

普段皆さんが口にしているコムギは、ほぼこのコムギに分類されます。


スペルト小麦(学名:T.spelta)」は、このパンコムギ(普通系コムギ)の原種にあたる古代小麦です。

そして、疑惑の「エンマー小麦(学名:T.dicoccum)」。

この小麦は現在、パンコムギ(普通系コムギ)の次に多く栽培される、マカロニ小麦やデュラム小麦などの名称で呼ばれ、パスタやマカロニの原材料になっている、二粒系小麦の古代原種(亜種?)にあたるコムギなのです。

要は同じ古代種でも、正確には系統の全く違うコムギなのがおわかりになったでしょうか?。


「なぜそんな疑惑が起こったのか?」


私が買った種はナチュラルハーベストさんというお店が仕入れているイタリア産の種子で、箱にはファッロとの表記がありました。

IMG_0717
商品リンクはこちら

お店のほうもスペルト小麦の種子と表記してこちらを販売しています。

なかなか日本でも情報の無いスペルト小麦。私も、購入時には英語名がスペルト、ドイツ語でディンケル、イタリア語でファッロ、ぐらいのおぼろげな知識しかありませんでした。

しかし栽培を始め、色々とこの小麦について勉強していたところ、イタリア語でファッロとは殻つき小麦全般を指す言葉で、ファッロ=スペルト小麦ではないとの情報に辿りつきました。

さらに先日、スペルト(ディンケル)小麦の本場、ドイツより種子を正式に輸入され、日本で本格的な栽培をされている滋賀県の唯一の農家さん、大地堂さんの畑を見学させてもらった際にスペルト(ディンケル)小麦、エンマー小麦、両者とも見せていただいたのですが、家の畑で育てている小麦の外見は明らかにエンマー小麦に酷似しているのです。。

具体的な外見上の違いとしては、この比較写真を見ていただくとわかりやすいのですが、

Farro

三番のスペルト小麦(T.spelta)には野毛がほとんど無い(もしくは短毛)のに対して、二番のエンマー小麦(T.dicoccum)は長毛なのが特徴です。


IMG_1082

↑家の畑で試験栽培されているコムギ


さらに詳しくは以下に引用させていただいたサイトなどを読んでいただくととてもわかりやすいです(以下引用)

イタリア語の辞書ではFarro=スペルト小麦、ドイツ小麦としか書かれていません。 

実際はFarroが生産されている主な州によってきちんとその品種名(学術的名)が表記されています。

以前から何度も登場して来ていた
emmerspeltは英語表示で、本来はemmerTriticum dicoccumspeltTriticum spelta さらに二粒小麦と普通小麦で違うのです。

長い、ながーい時をかけて野生一粒小麦Triticum monococcumの前の野生種とクサビ小麦がかけ合わさり二粒小麦Triticum dicoccumが誕生し、さらにその二粒小麦と野生のタルホ小麦がかけ合わさりTriticum speltaとなったようです。

要は、Farro=スペルト小麦では無いと言う事です

Farro について京都大学、新潟大学の教授に聞いてみたところ、やはりスペルト小麦とエンマー小麦は違うものだそうです。

今月号の
ソトコトにも書いてありますが、イタリアではほとんどがTriticum dicoccum(エンマー小麦)で、スペルト小麦の生産はごく少量のようです。まず穂の形が違っていますので、見た目ですぐに分かると思います。

ここで、知ったぷりはできないので、まずは京都大学のHPをご覧ください。

こちらです


VINO! VINO! shinoVINO?! vruocculu 「やっと。。。。Farro !! 」:http://vruocculu.exblog.jp/8432682/ 
より引用

ファッロの謎

ファッロには三種あり、スペルト小麦だけでなく、エンマー小麦や一粒小麦が原材料となっていること。

そしてどちらかというと、
エンマー小麦が主流であること。

実は今回小麦のことをいろいろネット検索でも調べていると、
ファッロスペルト小麦という記述があちこちで見受けられました。
私の買った
ファッロだけなら、たまたまスペルト小麦を原材料にしたファッロだったのかもしれませんが、なぜか日本ではファッロスペルト小麦、という図式が流布しちゃってる(間違ってても簡単に広まってしまうというのは、ネットの怖いところでもありますが)。

また、
ファッロというと、単にエンマー小麦そのものを指すこともあるようです。

ネットで泳いでいると、英語のウィキペディアにも
ファッロの情報が載っているのにぶつかりました。
http://en.wikipedia.org/wiki/Farro

ファッロは英語圏においてすら、混乱に満ちた食材なんだそうです。

エンマー小麦のことだという人もあれば、いやファッロスペルト小麦のことだと主張する人もあり、どっちでもないよという人まで現れる始末だとか。しかし、ここではファッロの原材料としては三種類の古代小麦を挙げています。

アインコルン小麦(
ファッロピッコロ
エンマー小麦ファッロメディオ
スペルト小麦ファッログランデ

この中でも
エンマー小麦を原料とするものが量的に主流。

そして、小麦粒の大きさが、アインコルン小麦、
エンマー小麦スペルト小麦の順に大きくなっていくことから、この三つを原料とするファッロをそれぞれファッロピッコロファッロメディオファッログランデと呼び分けることもあるんだそうです(piccoloはイタリア語で「小さい」、medioは「中くらい」、grandeは「大きい」)。

WikiCookRecipe日記さんより引用


どうやらこういった様々な情報から推測・判断するに、現在試験栽培中のコムギは「エンマー小麦(T.dicoccum)」の可能性が高そうです・・・。

正確には染色体検査をしなければわかりませんが、自分の栽培しているコムギはいったいどの種なのか、真意を知りたいところです。種子を販売しているナチュラルハーベストさんも真偽を調べ、間違いならば情報を訂正する必要がありそうですね。。

しかし「エンマー小麦」であろうと「スペルト小麦」であろうと、無事すくすくと成長していますので、もうすぐ実りをむかえるのがほんとうに楽しみです!

しかも、来季はご縁あって、確実な「スペルト(デインケル)小麦」の種子も分けてもらえることになりました!

来季は種取りしたこのコムギと合わせ、確実なスペルト種の栽培にもしっかり取り組んでいけそうです!!

この件でいろいろとコムギのことを調べ、多少コムギについて詳しくなりましたが、生命の進化を内包したなんとも不思議で魅力的な植物です。

今後も色々と勉強しながら、コムギ栽培に取り組んでいきたいと思います! 


無農薬・国産スペルト小麦の栽培や販売情報については、ふたごや農園のホームページにて随時更新中です。
 
よろしければこちらのページも是非チェックしてみてください。

ふたごや農園  http://futagoya.org


協力隊 白木

投稿者:地域おこし協力隊

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